司法書士法人オネスト 押田健児の備忘録

平成21年10月独立開業、平成24年10月法人化しました司法書士のブログです。東京都千代田区(神保町、小川町、淡路町、御茶ノ水、竹橋)で司法書士やってます。

消費者契約法と不動産実務

破産等を理由とする契約解除は消費者契約法により無効! ~賃貸住宅事業者・㈱明来に対する差止請求控訴審判決(一部逆転勝訴判決)~ /消費者支援機構関西 KC’s

破産等を理由とする契約解除は消費者契約法により無効! ~賃貸住宅事業者・㈱明来に対する差止請求控訴審判決(一部逆転勝訴判決)~ /消費者支援機構関西 KC’s

『賃貸借契約を無催告で解除できると契約条項で定める解除条項(無催告解除条項)のうち、賃借人に後見・保佐開始の申立てのあった場合についてのみ当該条項の使用差止を認めた第1審・大阪地方裁判所・2012(平成24)年11月12日判決(第4民事部)を変更し、賃借人に後見・保佐開始の申立てがあった場合だけでなく、賃借人に「破産・民事再生、競売・仮差押え・仮処分・強制執行の決定」があったとき無催告の解除権を認める条項は、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものとして、消費者契約法10条により無効であり、当該条項の使用を差止める一部逆転勝訴判決を言い渡しました。』
とのこと。

判決文も上記HPにて公開されています。

消費者契約法と不動産実務(4)/(大阪高裁平21.8.27)②

更新料支払条項を無効とした大阪高裁判決(大阪高裁平21.8.27)②

 

【更新料の法的性質について】

①賃貸人による更新拒絶権放棄の対価(紛争解決金)としての性質

⇒居住用物件の賃貸借では、賃貸人からの更新拒絶は想定しにくく、また、賃貸人は正当事由がなければ更新拒絶ができないところ(借地借家法第28条)、賃貸人の自己使用の必要性も乏しく、通常は更新拒絶の正当事由は認められないと考えられるため、賃貸人による更新拒絶権放棄の対価の性質を持つとするのは困難。

②賃借権強化の対価としての性質(借主は更新料を支払うことにより、貸主から契約期間中に解約を申し入れられることがなくなり、借主の賃借権が強化されるという考え。)

⇒本件賃貸借では、契約期間が1年間という借地借家法上認められる最短期間であり、合意更新により解約申入れが制限されることにより賃借権が強化される程度はほとんど無視してよいのに近く、また、通常賃貸人からの解約申入れの正当事由は認められないため、賃借権強化の対価として説明することも難しい。

③賃料の一部前払、賃料の補充としての性質

⇒賃料の一部の前払いであれば、賃貸借契約が契約期間の途中で解約された場合には、解約時以降の期間に相当する更新料の部分を精算しなければならないはずであるが、これを精算する規定がないこと等の事情からすると、更新料を賃料の一部前払いとして説明することはできない。

契約条項においても、重要事項説明書の記載や仲介業者の説明にも更新料の説明はなされておらず、当事者双方に更新料は単に契約更新時に支払われる金銭という以上の認識はなく、法律的な意味での賃料として説明することは困難。

 

【消費者契約法第10条の該当性】

○前段について

更新契約は、新たな賃貸借契約として、消費者契約法の適用を受け、賃借人は更新料10万円を支払わなければならないとされているから、民法の任意規定の適用される場合に比して賃借人の義務を加重する特約であるといえる。

=消費者契約法第10条前段に該当する

○後段について

・期間1年間という短期間であるのに、更新料の額が月額賃料の2ヶ月分余りとかなり高額。

・更新料約定の目的、法的根拠、性質は明確に説明されておらず、本件更新料約定が維持されるべき積極的、合理的な根拠を見出すことは困難であり、むしろ、賃借人の経済的な出損が少ないかのような印象を与えて契約締結を誘因する役割を果たすものでしかない。

・賃借人と賃貸人とは情報収集力に格差があった。

・賃貸人の更新拒絶に正当事由を要することを規定する借地借家法第28条の要件の明記が敢えて避けられ、賃借人に更新料の支払いが義務付けられており、客観的に見て、情報収集力のより乏しい賃借人から、借地借家法の強行規定の存在から目を逸らさせる面がある。

・賃借人が年額として支払うべき総額は明確に示されており、一見、賃借人に不利益は生じていないように見えなくもないが、借地借家法上の強行規定の存在について十分認識することができないままであり、本件約定が効力を生ずる場合と法定更新がされた場合その他の取引条件と自由に比較衡量する機会は十分に与えられていないから、実質的に対等にまた自由に取引条件を検討したということはできない。

=本件更新料約定は、「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一歩的に害するもの」(消費者契約法第10条後段)に該当する。

 

【本件更新料約定の本件賃貸借契約における中心条項性】

契約における対価に関する条項は、消費者契約法第10条の適用対象とならないのが原則であるが、本件においては、賃借人は客観的には、借地借家法の強行規定の存在から目を逸らされており、賃貸人との間で情報の格差があったことを否定することができないため、適用対象となる。

消費者契約法と不動産実務(3)/(大阪高裁平21.8.27)①

更新料については、同じ大阪高裁で無効とするものと有効とするものが出ていますが、先に無効とされたほうの整理をしてみたいと思います。

 

更新料支払条項を無効とした大阪高裁判決(大阪高裁平21.8.27)①

 

第一審の京都地裁では、更新料支払特約が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものではないことから、消費者契約法第10条に違反しないとして賃借人の更新料返還請求が棄却されましたが、控訴審の大阪高裁はこれを消費者契約法第10条に違反し無効であるとして、賃借人が消費者契約法施行後に支払った4回分の更新料の返還を賃貸人に命じました。

 

【事案の概要】

平成128月賃貸借契約締結

平成181130日退去

・賃料=月額45000円(共益費・水道代込み)

・敷金=10万円

・礼金=6万円

・更新料=10万円(1年ごと。自動更新条項による合意更新)

・期間=1年間

→過去5回分の更新料の返還請求

・更新料の条項

「賃貸借期間の満了時より、賃貸人にあっては6ヶ月前、賃借人にあっては1ヶ月前までに各相手方に対し更新拒絶の申出をしない限り、本契約は家賃・共益費等の金額に関する点を除き、更新継続されるものとする。但し契約書に別段の定めがある場合はそれに従う。尚この場合、賃借人は賃貸人に対し、契約書記載の更新料を支払わねばならない。」

・重要事項説明書での説明内容

「本契約満了により賃貸人は6ヶ月前、賃借人は1ヶ月前迄に各相手方に対し更新の可否を申し出ない限り継続され賃借人は賃貸人に更新料を支払い、同時に賃料等改定については公租公課・近隣賃料等の比較により改定する事ができる。」

 

【主な論点】

・更新料の支払特約は民法第90条(公序良俗違反)により無効か?

・更新料の支払特約は消費者契約法第10条により無効か?

 

【判決の要旨】

・消費者契約法施行前に締結された賃貸借契約に基づいて支払われた更新料10万円については、公序良俗にも反しないから返還不要。

・消費者契約法施行後の更新契約の更新料支払約定は、消費者契約法第10条に違反し無効であるので、賃貸人は当該約定に基づいて支払われた更新料40万円を返還する義務がある。

 

(続く)更新料の法的性質等と大阪高裁の判断について

消費者契約法と不動産実務(2)

消費者契約法の概要(2)


○消費者契約法に違反する場合にどうなるか

事業者の不当な勧誘行為については、消費者に取消権が与えられます。

また、不当な契約条項の使用については、無効となります。

内閣府の事例等を引用しつつそれぞれどのような類型があるか列挙すると下記のようになります。

 

「不当な勧誘行為」(第4条)

・不実告知

・断定的判断の提供

→「ここは地価が絶対上がります!」

・利益事実の告知+不利益事実の不告知

→眺望および日照を害する隣接マンションの建設計画を知りながら、販売するマンションについて「眺望と日照良好」と説明する一方で、隣接地の建設計画の事実を説明しないで販売する行為

・不退去

消費者の自宅等において、消費者が退去して欲しい旨を告げているのにも係わらず、勧誘する行為

・監禁

→事業者の販売店等で、消費者が自宅に帰りたい旨を告げているのにも係わらず、勧誘する行為

 

「不当契約条項の使用」(第8条~10条)

・事業者の損害賠償責任を免除する条項

いかなる理由があっても事業者は一切の損害賠償を負わないとする条項

・消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項

消費者が解約した場合、支払い済の代金を一切返金しないとする条項

・消費者の利益を一方的に害する条項

賃貸借契約で、借主に過重な原状回復を義務付ける条項

 

 

民法の詐欺・強迫による取消や錯誤無効との相違点は、事業者側の故意・過失を問わないことにあります。つまり、例えば事業者側がうっかりや思い込みで結果として「不当な勧誘行為」となったとしても、消費者には取消権があることになります。

 

 

損害賠償額の予定・違約金が平均的損害額を超える場合は無効となりますが、「平均的損害額」の立証責任は事業者側にあり、ほとんどの判例で違約金0となっています。

なお、宅建業法上違約金は2割までとありますが、これは消費者契約法よりも優先するものとされています(第112項「消費者契約の条項の効力について民法及び商法以外の他の法律に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。」)。

但し、福岡高裁で宅建業者が売主の不動産売買契約の違約金特約(売買代金の2割)を信義則に反し無効とした判決が出ていますので注意が必要です(福岡高裁平成20328日判決(上告))。本事案では、売買代金の1割よりも少ない金額を手付金としていたのですが、違約金は手付金の倍額が相当であるとされました。宅建業法上認められているものを「信義則に反する」と言ってしまってよいのか疑問が残ります。

 

消費者契約法と不動産実務(1)

消費者契約法と不動産実務の関わりについて、自分なりにまとめていこうと思います。

 

消費者契約法の概要(1)

 

○消費者契約法の適用範囲

消費者契約法は、「消費者契約」について適用されます(23項)。

「消費者契約」とは「消費者」と「事業者」との間で締結される契約のことです。但し、労働契約は除きます。

 

○定義

「消費者」とは(21項)

→個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)のことです。

「事業者」とは(22項)

→法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人のことです。「法人その他の団体」には、全ての種類の法人や自治会、管理組合その他任意団体も含まれます。

 

「事業」には、個人が所有する建物を賃貸することも含まれます。

よって、個人の大家さんが反復継続してアパートの賃貸借契約を締結する場合は、大家さんは「事業者」となりますので、相手側が「消費者」であれば、消費者契約法の適用があることになります。

一口に大家さんと言ってもいろんな方がいるでしょうし、現実には「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差(1条)」があまりないこともあるんじゃないかなぁという気もします。

なお、自己所有建物の賃貸は消費者契約法上の「事業」には該当することはありますが、宅建業法の宅建業には該当しません。

 

○消費者契約にあたらない契約類型

「事業者」と「事業者」との間の契約

「消費者」と「消費者」との間の契約

 

≪消費者契約法≫

(定義) 

第二条  この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。

 この法律(第四十三条第二項第二号を除く。)において「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。

 この法律において「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。

 (省略)

プロフィール

司法書士 押田健児

平成14年に司法書士試験に合格し、複数の事務所勤務を経て、平成21年10月1日に九段下に司法書士事務所を開業しました。平成24年10月に神田錦町に事務所移転、法人化。NPO法人相続アドバイザー協議会認定会員。
昭和54年長野県生まれ、東京都町田市育ち。
幼稚園から中学校までレスリング道場に通い、高校大学ではレスリング部に所属。
日本大学藤沢高校卒業。
法政大学法学部法律学科卒業、一部体育会レスリング部所属(スポーツ推薦入学でした)。
平成27年4月より、町田市体育協会評議員
【保有資格など】
司法書士 行政書士 宅地建物取引主任者 測量士補 NPO法人相続アドバイザー協議会認定会員 上級救命技能認定

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